[ 酒蔵インタビュー ] 君盃酒造。Vol.1 

取材

やはり酒好きとしては、蔵元さんインタビューは避けては通れぬ道でございました。快く引き受けて下さり、本当に嬉しかったです。静岡市駿河区手越にあります『君盃酒造株式会社』さんにお邪魔してきました。

おかの:今日はよろしくお願いいたします。君盃酒造さんの成り立ちからお伺いしてもよろしいでしょうか?

市川:この土地では江戸時代よりかなり前からお酒造りをしていたんですね。色んな方々が携わってきたそうです。明治か大正か分からないのですが、市川家先祖の市川清一郎が小坂(当時の満寿一酒造)より手越のこの土地に出てきて「駿河政宗」という名前でお酒を造り始めたんです。

その後、時代が過ぎ、第二次世界大戦の頃は食べるお米が減ってしまい、その影響でお酒造りも禁止になってしまいました。しばらく休まざるを得なかったのですが、昭和25年に私(市川英俊)の曽祖父である市川文と祖父である清一が「日本酒を造ろう!」ということになり、出資者を募り4件合同で君盃酒造株式会社を作ったことが所以で、今に至ります。

それまでは「駿河政宗」というお酒を造っていたのですが、君盃酒造を始める時にお酒の名前を考えようということで募集をしたのですが、なかなか良い名前が見つからずにいたんです。ところが、静岡税務署の役職ある方が「君盃」と書いて下さったことで名前が決まり、君盃酒造が始まりました。

 

ちなみに「君盃」とは中国・唐代の詩人王維による親しい友との別れを惜しむ詩が由来だそうです。「勧君更尽一盃酒」気になる方は調べてみてくださいね!

 

おかの:君盃酒造として、この土地で72年続けられているのですね。その時代から現在まで受け継がれてきたものはあるのでしょうか?

市川:井戸の水だけです。この場所はとても水が良いんですね。安倍川の伏流水の特徴は、超軟水で甘い水なんです。不思議と硬水だと力強いお酒が出来ますが、この水はやさしいお酒が造れるのです。この水を活かしてやさしい味わいのお酒造りを目指しています。

おかの:やさしい味わいのお酒造りを目指されているんですね。君盃さんのお酒をいただくと、柔らかく、お酒が引いていく余韻に、程よい自然な甘みが感じられますよね。

市川:ありがとうございます。25年くらい前に父と二人で酒造りをしていこうと決めた時に造ったお酒が、どれもこれもうまくいかなかったのです。静岡県の蔵元さんは静岡酵母を多く使われるのですが、他の蔵元さんのお酒と比べたらとても敵わない・・・と困っていたところ紹介してもらったのが「M310」という茨城県の酵母だったんです。それと日本酒造りの基本を忠実に行ったところ、県の鑑評会で3位、全国新酒鑑評会でも入賞を果たすことが出来ました。嬉しかったです。ここからやっていけるという希望の光が一筋見えたんです。

おかの:この安倍川の伏流水とお米と酵母が合わさって素晴らしいお酒に繋がったんですね。お米は何を使われていたのですか?

市川:当時は山田錦で、他にも五百万石、富士の舞、日本晴を使っていましたね。
今は日本晴と美山錦、特に長野の美山錦を使い、大吟醸にも使用しています。誉富士も使っています。君盃としての個性を活かしていくために、全国的に多く使われている山田錦ではなく日本酒の味わいの可能性を広げようと美山錦を選んでいます。たかね錦の突然変異である美山錦はとろっとした甘みのあるお酒に仕上がるんです。

おかの:君盃さんが目指されるやさしい甘みのあるお酒に合っているんですね。

市川:静岡酵母は辛口になる傾向があるのですが、「M310」酵母はそれほど発酵力が強くないので甘口のお酒が出来るんです。静岡県の中でも甘口のお酒は君盃さんしかないよとも言われています。そこで生き残りをかけようと思っています。

おかの:君盃さんのお酒は口に残る甘さではなく、やさしさがあって程よい甘さとすっきりした味わいのバランスがとても良いですよね。

市川:父(市川誠司)の腕が良いんですね。呑んだ人を幸せな気持ちにするやさしいお酒を目指しているんです。ただ、いつこの蔵がなくなるか分からないと言い続けて10年になりますが笑

おかの:消費者としては、ぜひ続けていただきたいです。今、どのようなお客様が多いのでしょうか?

市川:うちのお酒はあまり酒販店などには置いていないんです。値段で比べられると他のお酒と競合してしまうので、それを避けるため、この酒蔵に直接買いに来てもらえるのが一番良いと父が最初に決めたことなんです。週末の仕事帰りに遠方から通ってくださるお客様もいるんです。足を運んでもらえるのがとても有難いです。小さな蔵ですから派手な宣伝はできませんが、母の手書きで販促用のカードみたいな物も手作りで置いてるんです。

おかの:手づくりの味わいがあって素敵ですね。この日本酒のラベルもとても綺麗ですね。

市川:京都友禅のデザインを高級な手漉き和紙に印刷した千代紙をラベルに使用しています。一つひとつ変化があるので、ボトルも楽しいんでもらえるようこだわっています。
このラベルは女性に人気ですが、男性は中身が美味しければ良いみたいですねぇ笑。多くの女性が甘口のお酒と綺麗なラベルで君盃のファンになってくれたら嬉しいです。

おかの:こちらのボトルのラベルも素敵ですね。

市川:これは、25年前に売り出した夏酒なんです。アルコール度数18度の純米生原酒を夏酒として売り出したのですが、まだ静岡ではあまり浸透していなく、なかなか受け入れられなかったんですよね。他にもアルコール度数高めの日本酒をロックで飲む事を提案したり、炭酸で割るなどの楽しみ方も早くから伝えていたんです。小さい蔵なので当時はなかなか理解してもらえなかったですね。

おかの:今では一般的になっていますよね。先見の明がお有りなんですね。以前、オレンジジュースと日本酒を1:1で割ったスクリュードライバーを広めたいとおっしゃっていて、動画を見せながら教えてくださいましたね。面白くて家に帰ってやってみました。後から日本酒の香りというか味わいが心地良くて、スイスイ飲んでしまい大変危険な飲み物だと感じました笑。ですが、酒好きにはたまりません。とても美味しかったです。

市川:お客様が喜んでいただけるうちは、日本酒を造っていきたいです。

おかの:これからの君盃酒造さんが生み出す新たな発想も楽しみにしております。今日はありがとうございました。

全国的にも清流として名高い安倍川の伏流水を活かし、こだわりの米と相性の良い酵母を使い、親子2人で醸す日本酒は、造り手の人柄が合間ってやさしく語りかけるような飲み心地を生み出しています。

今回、対応してくださった英俊さんは、本当に明るく気さくな方で、直接酒蔵に顔を出す楽しみを感じさせてくれる素敵なお方でした。これからの日本酒のあり方にどんな風な仕掛けを考えてくれるのかとても楽しみです!

お時間いただきありがとうございました!


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